同一労働同一賃金対策支援
~パートタイム・有期雇用労働法で求められる対応とは~
社労士事務所アソシエでは、中小企業が働き方改革関連法に適合するための取組みを支援しております。
働き方改革に関連する法律の施行が目白押しです。パートタイム・有期雇用労働法の施行を2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)に控えカウントダウンが始まっています。このサイトでは、『同一労働同賃金』について、事業者が求められる対応・対策をご案内しています。
同一労働同一賃金への対応に向けて手探り状態かと思われますが、厚生労働省の方でも特別にサイト(『パート・有期労働ポータルサイト』)を設け法律の周知と企業への対応を呼びかけています。そのポータルサイトの中では、厚労省の職員(有期短時間労働課の松永久氏)が動画で解説をしています。また、取組手順書などさまざまな関連資料が厚労省から出ています。
これらを出典元として、情報を編集しまとめました。また、『同一労働同一賃金ガイドライン』(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)や類似の判例などを参考にしながら法改正への準備を進めていきましょう。
目次
法改正に対するための取組手順について
パートタイム・有期雇用労働法に対応するために、会社の待遇が改正法の内容に沿ったものか『取組手順書』※を活用して点検してみましょう。
※取組手順書とは、厚生労働省が発行している『パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書』を指します。
《取組手順書に沿った点検を行う例》
まず最初に手順1で、従業員(以下、労働者)の雇用形態を確認します。そして、パートタイム労働者か有期雇用労働者のいずれかがいる場合は、手順2に進みます。
手順2では自社の正社員に対してどのような手当を支給しているかをすべて書き出します。次に書き出した手当について、正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者との間で支給の有無や支給基準に違いがあるかどうかを確認。正社員とパートタイム労働者、有期雇用労働者の基本給、賞与、各種手当などの賃金や、福利厚生、教育訓練などのあらゆる待遇の状況を確認し、正社員との違いがあるか、どのような違いがあるかを見ていきます。待遇差がある場合は次の手順3で違いを設けている理由を整理します。
手順3において、待遇に違いがある場合は、その手当の目的やどのような違いを設けているか、違いを設けている理由をそれぞれ書き出します。その違いは、働き方や役割の違いに見合ったものであるか、均衡待遇の考え方に従って不合理な待遇差となっていないかを確認。なお、均等待遇の場合は、すべて同じ取扱いにすることが求められます。
基本給、手当、賞与、福利厚生など個々の待遇ごとに点検します。
同一労働同一賃金ガイドライン等に掲載されている順番にこだわる必要はありません。各種手当や福利厚生など取り組みやすいものから進めるとよいかもしれません。正社員に支給していてパートタイム労働者・有期雇用労働者には支給していない手当がある場合、それがなぜなのかを考えます。なぜ待遇に違いを設けているのか、その理由について、労働者が納得できるような客観的・具体的な説明ができるかどうかを改めて整理してください。
もし、客観的・具体的な説明ができないという場合は、待遇の違いが不合理であると判断される可能性がありますので待遇の改善を検討します。
不合理とまでは言えず問題ないと考えられる場合は、手順4で労働者から説明を求められたときに説明できるよう、あらかじめ整理しておきましょう。手順3、手順4のステップが判断が難しい作業となってきますので、ここの段階をしっかり考えることが重要です。
待遇の違いの説明について、労働者の方からの理解が得られるかどうかがポイントになります。単に「パートだから」とか、「将来の役割・期待が異なる」からといった抽象的な理由で正社員と非正規雇用労働者との間で差を設けているということであれば、従業員の方からの理解を得ることは難しいでしょう。そこで、待遇の見直しについて、ガイドラインの具体例、過去の裁判例などを参考にしながら検討をおすすめします。
また、不合理ではないと考えられるものの、待遇に違いがある場合は労働者から説明を求められたときに説明できるよう整理しておきましょう。手順4まで進めた結果、待遇の改善が必要となった場合は、待遇改善のための原資をどうするかの検討や労使の話し合いが必要になってくるかもしれません。
●パートタイム労働者(短時間労働者)とは
いわゆるフルタイムの正社員と比べて1週間あたりの所定労働時間が少しでも短い労働者をいいます。
●有期雇用労働者とは
労働契約期間に定めがある労働者といいます。
●中小企業の定義:(参考)労働基準法における法定割増賃金率の引上げ関係の猶予対象となる中小企業の範囲
業種 | 資本金の額 又は 出資の総額 |
又は | 常時使用する 労働者数(※) |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 | |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 | |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | |
上記以外の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
※常時使用する労働者数は、常態として使用される労働者数であり、臨時的に雇い入れた場合や、臨時的に欠員を生じた場合については、常時使用する労働者数に変動が生じたものとしない。パート・アルバイトであっても、臨時的に雇い入れられた場合でなければ、常時使用する労働者数に含む。
法改正の目的と主な改正点について
現在、パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者などと呼ばれる非正規雇用労働者は働く人全体の約4割を占めています。ところが、そうした非正規雇用労働者の待遇については、正社員の待遇と比較して大きな差があるといわれています。
そこで、今般の働き方改革のなかで、いわゆる同一労働同一賃金と言われる状態を目指し、雇用形態にかかわらない公正な待遇を確保すべく次の3つの法律が一体的に改正されました。
- パートタイム労働法 ※
- 労働契約法(有期雇用契約)
- 労働者派遣法
※パートタイム労働法については、パートタイム労働者だけでなく、有期雇用労働者も対象に含まれることになり法律の名称が変更することに。「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)」から「短時間労働者及び有期雇用労働者の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)」へと変わります。
法改正の目的
同一の企業内における正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差をなくすことを目的とし、どのような雇用形態を選択しても待遇に納得して働き続けることができることを目指しています。
比較するのは、「同じ企業内」の正社員と非正規雇用労働者。たとえ同じ業種や職種であっても、他の企業の労働者と比較するものではありません。
【対応が必要な労働者】
●パートタイム労働者 ●有期雇用労働者 ●派遣労働者※
※派遣労働者についても、改正後の労働者派遣法により不合理な待遇差を設けることが禁止されます。
主な改正点
1.不合理な待遇差をなくすための規定の整備
同一企業で働く正社員と短時間労働者・有期雇用同労働者との間で、基本給、賞与、手当などあらゆる待遇について不合理な差を設けることが禁止されます。
2.労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
事業主は短時間労働者・有期雇用労働者から正社員との待遇の差の違いやその理由について説明を求められた場合は、説明しなければなりません。
3.裁判外紛争解決手続き『行政ADR』の規定の整備等
これは行政側に求められる措置です。都道府県労働局においては、無料・非公開で紛争解決手続きを行うこととされます。「均衡待遇」や「均衡差の内容・理由」に関する説明についても、行政ADRの対象となります。
改正の具体的な内容
1.不合理な待遇差をなくすための規定の整備
事業者は、正社員と非正規雇用労働者との間に不合理な待遇差がある場合、待遇差について不合理でないものにすることが求められます。
【待遇差が不合理かどうかについて判断する基準】
「均衡待遇」と「均等待遇」
この二つの考え方について理解する必要があります。
均衡待遇とは
次の①~③の項目を考慮して、不合理な待遇差を禁止するもの。
①職務内容
②職務内容・配置の変更範囲
③その他の事情
つまり、「均衡」とは、バランスの取れた待遇にしなければならないとされています。
①職務内容とは
「業務の内容」とその業務に伴う「責任の程度」を指します。
この二つの要素は、労働者の就業の実態を示す要素のうち最も重要なものです。
◇業務の内容の「業務」とは、「職業上継続して行う仕事」のこと。
「業務が同じか否か」の判断にあたっては、次の要素でみます。
●業務の種類
職種のことをいいます。
例)販売職、事務職、製造工、印刷工など
●個々の業務のなかの中核的業務
例でみてみましょう。
「紳士服売り場の責任者として働く正社員」
「婦人服売り場の責任者として働く有期雇用の契約社員」
・どちらも販売職ということで業務は同じ
・扱う商品に違いはあるが、必要な知識の水準等に大きな違いはなし
・在庫管理や他の社員の指導などについても違いはない
この場合、中核的業務の内容や責任の程度においても違いはない、と考えられることから職務内容は同じと考えられます。
◇「責任の程度」とは、業務にともなって与えられている権限の範囲を指します。
例)・単独で契約締結可能な金額の範囲
・管理する部下の人数、決裁権限の範囲
・業務の成果について求められる役割
・トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の
・ノルマ等の成果への期待度 など
【業務にともなう「責任の程度が異なる」具体例】
正社員 | 有期雇用の契約社員 |
・繁忙期や急な欠勤者が出た場合の対応を求められる ・月末になると残業をするとが多くなる |
正社員に求められる対応は求められない |
②職務内容・配置の変更範囲とは
人事異動や役割の変化等の有無や範囲を指します。
いわゆる、人材活用の仕組みや運用などのことです。
【人材活用の仕組みや運用などが異なる具体例】
正社員 | 有期雇用の契約社員 |
全国的に転居を伴う転勤がある |
自宅から通える範囲でのみ異動している |
③その他の事情とは
例えば、次のようなさまざまな事情が含まれます。
・職務の成果、能力、経験
・合理的な労使慣行
・労使交渉の経緯 など
「均衡待遇」のポイント
正社員と非正規雇用労働者との間に待遇の差がある場合、
①職務内容 ②職務内容・配置の変更範囲 ③その他の事情
のなかから個々の待遇の性質・目的に照らして、適切と認められる事情を考慮して不合理な待遇差を禁止するというものになります。
【個々の待遇の性質・目的に照らして、適切と認められる事情を考慮することの具体例】
正社員 | 有期雇用の契約社員 |
定額の「店長手当」を支給 |
定額の「店長手当」を支給していない |
この場合、不合理かどうかの判断は次のようなプロセスで考えることができます。
・店長手当の性質・目的に照らして適切と認められる事情→・店長という職務に対して「店長手当」を支給している→・店長という職務=「職務内容」を考慮して判断
均等待遇とは
次の①と②が全く同じ場合は、差別的取り扱いを禁止されます。
①職務内容
②職務内容・配置の変更範囲
すべての待遇について、同じ取り扱いにしなければなりません。
例でみてみましょう。
「紳士服売り場の責任者として働く正社員」
「婦人服売り場の責任者として働く有期雇用の契約社員」
・職務内容は同じと判断され
さらに、人材活用の仕組みにおいても
・転居をともなわない範囲での転勤をする
・販売職以外の職種には就かない
・昇進は売り場の責任者まで
といった条件で、職務内容・配置の変更範囲も同じと判断される場合が該当します。
「均等待遇」のポイント
正社員と非正規雇用労働者との間で、職務内容、職務内容・配置の変更範囲が同じ場合
→すべての待遇について同じ取り扱いをしなければなりません。
労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
パートタイム労働者や有期雇用労働者から求めがあった場合、正社員とどのような待遇差があるのか、なぜそのような待遇差が生じているかについて説明することが事業主に義務付けられました。
あわせて説明を求めた労働者に対する不利益取扱い禁止の規定が設けられました。
待遇差の内容と理由について、どのように説明すればよいか
待遇差の内容と理由について、次の3点に留意して対応することが求められます。
1)誰と比較するか <比較対象>
2)どのようなことを説明するか <説明内容>
3)どのような方法で説明するか <説明方法>
1)誰と比較するか
説明を受けるパートタイム労働者・有期雇用労働者の比較対象となる正社員は誰になるかを確認します。
待遇差の内容や理由の説明における比較対象は、同一の事業主に雇用される正社員(無期雇用フルタイム労働者)のうち、その職務内容、職務内容・配置の変更範囲等がパートタイム労働者・有期雇用労働者の職務内容、職務内容・配置の変更範囲等に最も近いと事業主が判断する者となります。
2)待遇差の内容についてどのようなことを説明すればよいか
①比較対象となる正社員との間で、待遇に関する基準に違いがあるかどうか説明
例)賃金表を正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者で別に設けているか。
②比較対象となる正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者それぞれの待遇の内容または待遇に関する基準のいずれかを用いて、どのような待遇の差があるかを説明
例)賃金であれば、個々の労働者に対して支給する賃金の額や複数の労働者に対して支給する賃金の平均額、いくらからいくらまでといった賃金の範囲、賃金表を示すことなどにより説明する。
③待遇差の理由について「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」のうち、個々の待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものに基づいて説明
●待遇に関する基準が同じであれば同じ基準のもとで違いが生じている理由を説明します。
例)成果・能力・経験などの違いで差が生じているのであれば、その旨を説明する。
●待遇に関する基準が異なっているのであれば、
・そもそも待遇自体に違いを設けている理由について、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情に照らして説明し、
加えて、
・それぞれの基準を正社員、パートタイム労働者・有期雇用労働者にどのように適用しているかを説明。
待遇差の理由が複数あるのであれば、複数の理由を説明することになります。
3)どのような方法で説明するか
パートタイム労働者や有期雇用労働者が説明内容を理解することができるように資料等を活用しながら口頭で説明することが基本となっています。
この場合の資料としては、「就業規則」や「賃金表」などを指しますが、他に説明すべき内容を分かりやすく記載した文章を渡すことでも差し支えありません。いずれにしても、説明を求めた労働者が「理解できる=わかる説明」をすることが重要。
この他には、有期雇用労働者を雇い入れたときに本人に対して行う雇用管理上の措置の内容について説明することが義務付けられました。現行のパートタイム労働法ではすでにパートタイム労働者に規定されているものが有期雇用労働者にも拡大する形です。
裁判外紛争解決手続『行政ADR』の規定の整備等
裁判外で労使紛争を解決する規定が盛り込まれました。これまで、パートタイム労働者について整備されていたものです。
●行政指導の規定
●労働局長による紛争解決援助
●調停会議による調停
といった裁判外紛争解決手続=ADRの制度が有期雇用労働者についても整備されました。また、「均衡待遇 」や「正社員との待遇差の内容や理由に関する説明」について裁判外紛争解決手続の利用が可能となっています。
《紛争解決援助や調停は労働者も事業主も利用が可能》
紛争解決援助や調停は、労働者だけでなく事業主も利用を申し立てることができます。主な特徴は次のとおり。
●裁判よりも簡易・迅速に労使間の紛争を解決する手段として労使双方にメリットがあるものです。
●企業名や内容は非公開であり、調停会議での調停案について、当事者双方に成立した合意は民法上の和解契約となります。
同一労働同一賃金ガイドラインについて
どのような待遇差が不合理なものか否かを示した『同一労働同一賃金ガイドライン』(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)というものがあります。同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないのか、原則となる考え方と具体例を示したものです。
《ガイドラインはすぐに守らないといけない?守らないとどうなるの?》
ガイドラインは、改正法の施行時期に合わせて適用される予定です。(令和2(2020)年4月1日。ただし、中小企業におけるパートタイム・有期雇用労働法の適用は令和3(2021)年4月1日)。このため、現時点で、今回のガイドラインを守っていないことを理由に、行政指導等の対象になることはありません。
なお、現行法においても、 労働契約法20条、パートタイム労働法8条・9条 において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差が禁止されています。
現行法についての詳しい内容は、こちらをご参照ください。
同一労働同一賃金ガイドラインの求めるところ
このガイドラインは正社員と非正規雇用労働者との間で待遇差が存在する場合、どのような待遇差が合理的か、不合理でないかといった原則となる考え方について示したものです。加えて、典型的な例として整理できるものについて、問題とならない例、問題となる例という形でいくつかの具体例を示した内容となっています。また不合理な待遇差の解消は、賃金だけではなく教育訓練や福利厚生などすべての待遇について求められています。
基本給の考え方
賃金は大きく分けると次の3つの要素になります。
・労働者の能力または経験に応じて支給するもの
・労働者の業績または成果に応じて支給するもの
・労働者の勤続年数に応じて支給するもの
上記3つの要素について、それぞれの要素の実態に応じ同一であれば同一の支給が。違いがあれば違いに応じて支給が求められます。
注意:正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者の賃金の決定基準・ルールに違いがあるときは、「将来の役割期待がことなるため」という主観的・抽象的な説明では足りず、賃金の決定基準・ルールの違いについて、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして不合理なものであってはなりません。
<昇給>
・・・昇給については、労働者の勤続による能力の向上に応じ同一の能力の向上には同一の昇給を、能力の向上に違いがあれば違いに応じた昇給を行わなければならないとされます。
賞与の考え方
会社の業績等への貢献に応じて労働者に支給する賞与については、同一の貢献には同一の支給を、貢献に違いがあれば違いに応じた支給を行わければならないとされます。
賞与は各企業でさまざまな基準で支払われていますが、正社員には支給されているもののパートタイム労働者、有期雇用労働者にはまったく支給していないということがあるかもしれません。その場合、企業における賞与の性質・目的に照らしてそれが本当に説明がつくものかどうか確認し、説明がつかないということがあれば賞与の見直しをおすすめします。
各種手当の考え方
手当については、会社によって呼び名の違いがあれど、次のようなものをよく見かけます。
●役職手当
●特殊勤務手当
●通勤手当
●出張手当
●単身赴任手当
●食事手当
●家族手当
●住宅手当
●時間外手当等
<役職手当>
・・・役所の内容に対して支給するものについては、同一の内容の役職には同一の支給を、内容に違いがあれば違いに応じた支給を行わなければなりません。
<特殊勤務手当><通勤手当><出張手当><単身赴任手当>
・・・それぞれの手当の性質・目的を踏まえ、同一の支給を求めることとしています。特に「通勤手当」や食事のための休憩時間がある労働者に対する「食事手当」は、職務内容等との関連がないことが一般的であると考えられるため、同一の取り扱いが求められることが多いと思われます。
<家族手当><住宅手当>
・・・家族手当や住宅手当についても、均衡・均等待遇の対象になっており、各社の労使で個別具体の事情に応じで議論していくことが望まれます。
<時間外手当等>
・・・正社員と同一の時間外、休日、深夜労働を行ったパートタイム労働者・有期雇用労働者には、同一の割増率等で支給をしなければならないとされています。
福利厚生・教育訓練の考え方
福利厚生の代表格である「食堂」「休憩室」「更衣室」については、法律上、正社員と同一の利用が認められなければなりません。これら以外にも正社員と支給要件が同じ場合、同一の利用を認めたり、同一の付与をする必要がでてきます。
●転勤者用社宅
●慶弔休暇
●健康診断にともなう勤務免除、有給保障
病気休職
●無期雇用パートタイム労働者
→正社員と同一の付与をおこなう必要あり
●有期雇用労働者
→労働契約が終了するまでの期間を踏まえて同一の付与をおこなう必要あり
教育訓練
現在の職務に必要な技能・知識を習得するために実施するものについては、職務内容が同一であれば同一の実施を、職務内容に違いがあれば違いに応じて実施をする必要があります。
押さえておきたいポイント
特に、気をつけたい点を挙げております。これらの点に留意したうえで、不合理な待遇差の解消に向けて見直しを行いましょう。
なお、ガイドラインに載っていない退職手当、家族手当、住宅手当などの待遇や具体例に当てはまらない場合についても、不合理な待遇差の解消に取り組む必要があります。待遇の全般について、まずは労使でよく話し合っていくことが望まれます。
正社員と非正規雇用労働者との間に賃金の決定基準・ルールの相違がある場合
ガイドラインでは、正社員と非正規雇用労働者との間で賃金について共通の決定基準・ルールを採用していることが前提とされています。ですので、これらに違いがある場合は、ガイドラインには直ちに当てはまらなことになる恐れがあります。
もし、賃金の決定基準・ルールに違いがあるときは、「パートだから」「将来の役割・期待が異なるから」などという主観的・抽象的な説明では十分ではありません。
ですので、これらに違いがあるときは、「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」の客観的・具体的な実態に照らして、賃金の決定基準・ルールの相違が不合理でないものにする必要があります。
定年後に継続雇用された有期雇用労働者の取り扱い
定年後に継続して雇用された有期雇用労働者(嘱託社員)についても、パートタイム・有期雇用労働法が適用されます。
均衡待遇については、
①職務内容 ②職務内容・配置の変更範囲 ③その他の事情
を考慮して待遇差が不合理か否かが判断されますが、③のその他の事情として、「定年後に継続雇用された者であること」も考慮され得るということがガイドラインに記載されています。しかし、待遇差が不合理か否かの判断にあたっては、さまざまな事情が総合的に判断されることになるため、「定年後に継続雇用された者であること」のみをもって直ちに待遇差が合理的ではないと認められるものではありません。
定年後に継続雇用された有期雇用労働者についても、ガイドラインの記載や判決の内容を参考に待遇のあり方を考えましょう。
【裁判例】
・(労働組合などとの交渉を経て)定年後に継続雇用された有期雇用労働者に配慮した賃金としていたこと
・定年前の現役の正社員との間の賃金差が一定の範囲にとどまっていること
・退職金や老齢厚生年金の支給を受けていること
などを考慮されている内容が見受けられます。
不合理な待遇差を解消するにあたっての留意点
<留意点1>
不合理な待遇差を解消することの目的は、パートタイム労働者・有期雇用労働者の待遇の改善です。そのため、労使の合意なく正社員の待遇を引き下げて、不合理な待遇差を解消しようとすることは、望ましい対応とは言えません。
<留意点2>
正社員のなかに複数の管理区分(例えば、総合職、一般職など)がある場合、そのすべての雇用管理区分の正社員との間で不合理な待遇差の解消が求められます。
パートタイム労働者・有期雇用労働者と同じような仕事をしている無期雇用フルタイムの区分を設けて、その人たちの待遇を低くし、この人たちとの間で均衡待遇が確保されている、すなわち、待遇差が不合理ではないとしたとしても、他の雇用管理区分の正社員との間でも不合理な待遇差を設けることはできません。
<留意点3>
仮に正社員と非正規雇用労働者との間で、を分けたとしても、不合理な待遇差の解消が求められるということに代わりはありません。職務内容が異なっていても、職務内容などの違いに応じてバランスのとれた待遇を確保する必要があります。
参考となる裁判例
待遇差が不合理かどうかについて、労使の間で争いが生じた場合、まずは労使で話し合うことが大事です。それでも解決しない場合は、不合理かどうかについての判断は、最終的には裁判で決まることになります。
では、実際の裁判でどのような判決がでているのかを見ていきます。
2018年6月最高裁判決
運送会社のドライバーである有期雇用の契約社員と正社員との間で支給される手当が異なることが不合理か否かで判断が示されたものです。
※正社員と契約社員について
職務内容:同じ
職務内容・配置の変更範囲:異動や昇進など一定の違いが有り
■通勤手当
◇支給目的=通勤に要する交通費を補填する趣旨
※前提条件:交通手段や通勤距離が同じ
正社員 : 5,000円支給
契約社員: 3,000円支給
◇判決:不合理
・労働契約に期間の定めがあるか否いなかによって、通勤に必要な費用が異なるわけではない。
・正社員と契約社員の職務内容・配置の変更範囲が異なることは、通勤に必要な費用が多いか少ないかとは直接関係がない。
■皆勤手当
◇支給目的=出勤する運転手を一定数確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨
正社員 : 支給
契約社員: 不支給
◇判決:不合理
正社員と契約社員の職務内容が同じであることから、出勤する者を確保する必要は同じであり、将来の転勤や出向の可能性などの相違により異なるものではない。
■住宅手当
◇支給目的=従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨
正社員 : 支給
契約社員: 不支給
◇判決:不合理ではない
正社員は転居をともなう配転が予定されており、契約社員よりも住宅に要する費用が多額となる可能性がある。
■休職手当
◇支給目的=従業員の食事に要する費用を補助する趣旨
正社員 : 支給
契約社員: 不支給
◇判決:不合理
勤務期間内に食事をとる必要がある労働者に対して支給されるもので、正社員と契約社員の職務内容が同じであるうえ、職務内容・配置の変更範囲の相違と勤務期間中に食事をとる必要性には関係がない。
■無事故手当
◇支給目的=優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得が趣旨
正社員 : 支給
契約社員: 不支給
◇判決:不合理
正社員と契約社員の職務内容が同じであることから、安全運転および事故防止の必要性は同じであり、将来の転勤や出向の可能性などの相違によって異なるものではない。
■作業手当
◇支給目的=特定の作業を行った対価として、作業そのものを金銭的に評価する趣旨
正社員 : 支給
契約社員: 不支給
◇判決:不合理
正社員と契約社員の職務内容が同じであることから、作業に対する金銭的評価は職務内容・配置の変更範囲の相違によって異なるものではない。
《まとめ》
この判決はあくまで個別の企業の手当に関する判断であり、他の会社で同じ名前の手当があるからと言って、仮に裁判になっても同じ判決になるとは限りません。この会社の場合、住宅手当は正社員と契約社員とで転勤の範囲が異なることから不合理ではないと判断されましたが、一方で転勤が無い正社員にも住宅手当が支給されている場合は不合理と判断される可能性もあります。
御社で待遇について点検するにあたっては、こうした裁判例も参考にしながら自社の待遇に問題がないかについて社内で話し合いましょう。
最後に
人口減少社会のなかで、企業が人材を確保することは極めて重要な課題です。働き方改革の一環として、非正規雇用労働者の待遇改善という目的で予定されている同一労働同一賃金。非正規雇用労働者が待遇に納得して働くことができれば、モチベーションが上がり、人材の確保・定着や生産性の向上につながると期待されます。もちろん、そう単純ではないことは皆さんの方がよくご存じかと思いますが、非正規雇用労働者だけでなく、正社員も含めた従業員の納得性の高い待遇を重視し人材が定着することを意図した取り組みはこれからの時代は常識となるでしょう。
今や時代は転換点にあります。事業主の方々にとっても予測がつかないなかの企業運営は大変でしょう。社労士事務所アソシエは経営者のパートナーとして共に歩んでまります。
《働き方改革全般に関する支援をいたします》
●時間外労働の上限規制対応と労働時間制度の構築
●生産性向上による従業員の待遇改善
●人手不足の緩和に向けた施策
●働き方改革を進めるにあたって活用可能な助成金の相談と申請代行
●職務分析・職務評価の導入支援
●不合理な待遇解消のための点検・検討コンサルティング
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